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2005/12/30 「東京物語」

今週購入した「小津安二郎DVDボックス 第一集」から、「東京物語」を。

何度かTVの名画特集等で見たことがあるが、DVDで通して見るのは初めて。

まだ貧しかった戦後の日本。尾道の老夫婦、周吉ととみ(笠智衆/東山千栄子)が東京の子供たちを訪ねて上京してくる。東京では長男、長女の家庭に泊まり、それなりの歓待は受けるのだが、子供達にもすでに彼らの確立した家庭がある。生活に追われる中で、どこか邪魔者扱いされる微妙な雰囲気を老夫婦は察するが、表立って文句は言わない。唯一親身に彼らの面倒を見たのは、戦死した次男の未亡人紀子(原節子)だけであった。そして、帰郷後のとみの突然の死。

淡々と描く、端正で静かな物語運び。ここに描かれた東京はもうすでに無い。しかし、描かれた人間の感情は今でも変わっていない。老夫婦の情愛。肉親とはいえ感じる微妙な齟齬。子供への期待と失望。老いてゆく孤独と諦観。親身に世話をしてくれるのが実の子供ではなく、戦死した次男の嫁だという人生の皮肉。

小津のもっとも有名な作品であるこの映画は、英国の国立映画研究所の専門家アンケートの世界映画ベスト10の3位になったのだという。確かに舞台こそ日本であるが、この映画には、おそらくどこの国の人が見ても理解できる普遍的な人間の情感が淡々と描かれている。

映画の最後、とみが亡くなり、一人残された周吉と紀子の会話。「実の子供よりあんたのほうがようしてくれた。あんたはええ人じゃ。でも、もういいんじゃよ。昌二のことは忘れて幸せになってもらって」と周吉が紀子に再婚を勧めるシーンも心を打つ。

笠知衆は1904年生まれ。この映画は1953年の製作であるから、当時まだ49歳。しかし、70過ぎたジイさまとして完璧に成立している。これは本人の老け顔もあるが、小津の計算されつくした演出の賜物でもある。演技だけでなく、カット割やセリフも十分に吟味されている。原節子は、健気に生きる戦争未亡人の姿を実に印象的にスクリーンに定着させた名演。いまさらながら感心した、小津屈指というより、日本映画屈指の名作。