月曜午後、銀座に出て「ロード・オブ・ウォー(Lord of War)」を見た。 ニコラス・ケイジ扮するロシア系アメリカ人、ユーリが武器商人となり、大成功をおさめるさまを描く一種のピカレスク・ロマン。彼は、ソ連邦崩壊を奇貨として、旧ソ連軍の武器の横流しを受け、世界中の紛争地帯に供給することにより巨万の富を築く。 まず映画冒頭、タイトルバックのCGが印象的。工場で大量生産される軍用ライフルの銃弾。その一つの銃弾の運命をキャメラは執拗に追う。ベルトコンベアを流れ、木箱に大量に詰められ、輸出通関され、船で外国に運ばれる銃弾。到着したアフリカの国は内乱の真っ最中。トラックの荷台に積まれた木箱は、更に内陸に運ばる。そして兵士の手に掴み取られて自動小銃の中に装填される銃弾。硝煙と銃声の中、発射された弾丸を追うキャメラが行き着く先。映画の背後に流れるテーマを早回しで俯瞰するような衝撃的オープニング。 ニコラス・ケイジ演じるユーリは、「死の商人」になるために生まれてきたような男。仲間に引き入れた弟は、世界中に死と災厄を輸出する自らの役割を呪い、麻薬に溺れる。しかし、自制の効いたユーリは、自らもコカインを使いながらも中毒にはならない。そして金になるのなら、どんな武器でも誰にでも、アッサリと売って商売に。法律が許そうが許すまいが。 武器商人という「死のビジネス」の世界は、あまり描かれないだけに実に興味深い。武器密輸に関して次々と起こるトラブル、ユーリの国際犯罪を追うインターポール捜査官との死闘、独裁者が支配するアフリカの小国での危険極まりないビジネス。映画はスリルあふれるジェットコースターのように疾走して観客を最後まで飽きさせない。 映画の冒頭、燃え上がる廃墟を背景に、撃ち尽くされた空薬莢が地面にあふれる戦場で、ユーリがつぶやく。 There are over 550 million firearms in worldwide circulation. That's one firearm for every twelve people on the planet. The only question is: How do we arm the other 11? (世界には5億5千万丁の銃が出回っている。地球上の12名に1丁ずつ。さて。残りの11名にどうやって武器を持たせるか)この役は、物語の語り部であると共に、明らかに一種の「死神」である。下手をすると観客に嫌われかねないキャラクターだが、脚本が冴えており、口八丁手八丁の軽妙なセリフ回しや、ドリーム・ガールとの結婚などのサブ・ストーリーが主人公に深みと魅力を与えている。"I sell guns to every army but the Salvation Army. (救世軍以外ならどの軍にでも銃を売るさ)"てのは笑った。 そして、映画のクライマックス。ユーリを世界中で追い続けたインターポールの捜査官(イーサン・ホーク)はついにユーリを追い詰めたかに見える。しかし、舞台は暗転し、武器商人を遥かに越える暗黒の影を前にして正義は色褪せる。そして唐突に我々は映画の冒頭に回帰する。何の解決もなく、燃え上がる廃墟と撃ち尽くされた空薬莢にあふれ、絶え間なく銃声が響く世界に。
アクション物としても実に面白い映画だが、本当の「巨悪」は何なのかをも考えさせる、一種のポリティカル・ドラマとしても実に印象的に成立している。映画のエンドロールにある、「The movie is based on true events(この映画は事実に基づく」」とのキャプションが実に重く響く。武器商人が1年に扱うのは、軍事大国が公式に輸出する武器の1日分に過ぎない。ソ連邦崩壊後、ウクライナからは、いつのまにか550億ドル(およそ7兆円か)相当の武器が消えたのだそうだ。そう、去年読んだ、「戦争請負会社」も思い出したのであった。 |