「小津安二郎DVDボックス 第一集」から、「秋刀魚の味」を見た。 これが小津監督の遺作。晩年の「彼岸花」「秋日和」などと会社のセットもほぼ同じ、料理屋とそのおかみも同じ、同じ俳優陣が役柄を変えて登場。娘の結婚に揺れる父親の孤独を、端正で淡々としたタッチで描く手馴れた小津節。 妻に先立たれた主人公(笠知衆)は、同窓会の後で恩師を送って行き、昔は綺麗だったその娘さん(杉村春子)が、父親の面倒をみるため独身を通しうらぶれた姿になっているのを見てショックを受ける。そうなると、共に暮らす自分の娘(岩下志麻)の婚期が急に気になりだして慌てるというホームドラマ。 娘の婚期が気になるといっても、まだ24歳。当時の世相がうかがえる。「早く嫁にやれ」、「いい話があるんだがね」、「もうそろそろ行かないと」、「貰わないか」など、縁談を巡って連発されるセリフにも隔世の感あり。映画は昭和37年の製作だが、当時は若い娘は20代前半でお嫁に行くのが当たり前で、友人や親戚の娘の縁談なんてものも、コミュニティ全体で共有する関心事であったのだろう。結局、娘(岩下志麻)は父親の勧める縁談を受け入れお嫁に行く。 アメリカで働いていた時、プロジェクトで一緒だったムンバイ出身のインド人が、「我々はみんな親の決めた相手と結婚するんだ」と語ったので、なんと前近代的なと感心したことがあったが、ま、映画でみる日本の昭和30年代後半も同じようなもんだなあ。若き日の岩下志麻はしっかり者の娘を演じたいへんに綺麗。結婚式の後、花嫁の父、笠知衆が孤独をかみしめるシーンも印象的に仕上がっている。心の中に静かに染み入るような映画。 |