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1998/09/25 『プリンス オブ ザ シティ』

仕事から帰って、シドニー・ルメット監督の「メイキング・ムービー」の続きを読む。ルメットは、「12人の怒れる男」「未知への飛行」、「セルピコ」なんかを作った社会派の監督だが、彼の映画作りがどのように進められて行くかが克明に書かれていて興味深い。

普通、脚本から画面の絵コンテなんかを作って、俳優をそこに当てはめてゆく監督も多いようだが、彼はまず、脚本が完成したら映画の画面は考えずに、すべての俳優を集めての本読みから始める。そしてそのリハーサルの俳優の演技を見ながら、画面を構想して行くのだそうだ。あくまでも俳優の演技が先。なるほど。

途中まで読み進んだところで、アメリカから持って帰った彼の監督作品、「Prince of the city」のビデオがある事を思い出して、見ることにした。ところで、この映画の邦題は「プリンス オブ シティー」って言うんだが、なんで勝手に定冠詞の「the」を抜くのかねえ、日本の映画会社の宣伝部は。


NYのSIU(Special Investigation Unit=麻薬特別捜査班)の一員であるダニー・チェロ刑事が、司法省の実施する警官の腐敗内部特別調査に協力する事から物語は動き出す。

自身の免責と、自分と同じ班の仲間だけは見逃す約束で、麻薬組織の摘発や、マフィアと警官との癒着の捜査などに協力していたチェロだが、捜査が進むにつれ、ワシントン連邦政府の大掛かりな介入や、摘発した警官やエージェントの数々の証言により、捜査の焦点は、いやおうなしに、チェロが何よりも大切にしていた自分の仲間や、自分の親戚、そしてチェロ自身の犯した数々の犯罪にも及び始め、彼は結果的に大事な仲間達を裏切って行く羽目になる。

摘発した麻薬の横流し、逮捕した麻薬ディーラーの売上金の横領と着服、マフィアとの癒着と裏金による取引。警察内部の腐敗摘発は、もはや止めようのない流れとなって、彼の仲間の刑事達を次々と悲劇に飲み込んで行く。やがて新聞に捜査への協力をスクープされた彼は、犯罪組織や警官からの復讐を避ける為に、連邦証人保護プログラムによってボディガードつきで世間から隔絶された生活を余儀なくされる。

ルメットは社会派監督というだけあって、法廷場面も得意だが、圧巻は、映画の最後、警察浄化の数々の裁判の課程で明らかになったダニー・チェロ自身の犯罪と裁判での偽証を果たして訴追するべきか、と言う刑事局の担当検事達の討論の場面だ。

時には命の危険まで犯して捜査に協力したとはいえ、腐敗しきった組織の中で当たり前のように数々の犯罪を犯した彼を果たして免責すべきなのかどうか。そして印象的な苦いラストシーン。160分以上という長尺物だった為に商業的にはさほど成功しなかったようだが、手堅いルメット監督の緻密な映像が実に丹精な映画だ。

原作は、実際に行われた『おとり』を使っての腐敗警官捜査を基にしており、実効さえ上がれば手段を問わないと言うプラグマティックなところがいかにもアメリカの司法制度を感じさせる。字幕が無いと疲れるが、最近、クリントン問題で、prejury(偽証)とかprosecute(訴追する)とかの法律用語が耳になじんでいるので、その点は音声が聞き取りやすくてよかった。はは。