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1999/03/10 今夜は「シャイニング」

なにか急に寒さが戻ってきてあんまり出歩く気がしない。仕事は適当に切り上げてまっすぐ帰宅。このところキューブリック監督をしのんで手持ちのビデオをチェックしてるのだが、今日は、昨日途中まで見た、「シャイニング」 を最後まで見る。

本来、キューブリックはキャスティングが巧みで、どの映画を見ても、確かにこれしかいないというような俳優を、有名無名にこだわらずに起用する。ただ、この映画のジャック・ニコルソンだけは原作者スティーブン・キングのお気にめさなかったようだ。

確かに原作では、作家志望の元教師が、ロッキー山中の古びたホテルに巣くう超自然の悪霊に次第に取りつかれて、狂気に陥って行くさまが丹念に書き込まれているのだが、ジャック・ニコルソンが演じると、悪霊とは関係なく、単に最初から本人の資質として「キテる」ようにしか見えないんだなあ。そこが弱点といえば弱点か。

原作者のキング自身は、いわゆるホラー映画の撮り方でない点に色々とこだわりがあったようだ。インタビューでは、「All work no play makes Jack a dull boy」で埋め尽くされた原稿を見つけた妻に近づくジャックを事前に見せてしまうので観客のショックが半減する、ラストシーンは陳腐なミステリーゾーンの焼き直しだ、などと不満を述べている。どちらのシークェンスも原作には無く、映画で付け加えられたもの。

まあ、確かに普通のホラーなら、同じ文句が延々とタイプされた原稿をどんどんと繰って行き、夫の狂気に妻が気づいておびえきったその瞬間に、肩越しから急にバーっと顔を出して観客をもびっくりさせるのがお約束の手法。

最後にダニーを助けにきたコックの殺害シーンにしても、いきなり出てきて観客をびっくりさせることは可能だった。キッチンの戸棚にダニーが隠れるシーンにしても、普通のホラーであれば、その前をジャックがウロウロして、観客をハラハラドキドキさせるのがB級ホラーの古典的手法なのにもかかわらず、あっけなく逃げ出してしまう。そしてホラーというよりタイムパラドックスのSFを思い起こさせるような不思議なラスト。

ホラーを原作として、しかし、いわゆる「ホラー映画」の手垢のついた類型的撮り方をすべて廃して、それでもなお、この映画は典型的「キューブリック」の作品として成立している。そこがいつ見ても素晴らしい。