昼食後、ブラっと地下鉄に乗って銀座まで。「シックス・センス」を見る。街では、通常勤務のようなネクタイ姿も目だったが、映画館は、案外に混んでいる。
こういうのは、ジャンルとして、「psychological thriller」というのだろうか。少なくともホラーではないよなあ。ブルース・ウィリスは、いつものアクションスターではなく、以前の受け持ち患者の自殺に悩み、死者が見えるという超能力を持つ子供を助けようと尽力する児童精神科医をなかなか好演している。
この死者が見える子供役を演じたヘイリー・ジョエル・オスメントは、「フォレスト・ガンプ」でフォレストの息子を演じてたんだそうだ。それにしても、たいした演技力で、不思議な力を持ち、情緒障害気味で、いつもオドオドして、回りから苛められるという難しい役を見事に演じている。すでに何本もの映画に出演してるらしいが、若くしてスターになって、麻薬中毒になったり、アル中になったり、ギャラの配分巡って家庭崩壊なんて不幸に見まわれないように祈りたいもんだ。アメリカの「overnight success」は、時として残酷ですらある。
この映画は、まず脚本が素晴らしい。ラスト2分の劇的なドンデン返しと、すべての伏線とも見えなかった伏線が見事に結末に収斂して行く手際は、まさに脚本の勝利である。前半部分でいくぶん冗長に見えたすべてのシーンがあざやかに頭の中でフラッシュバックを起こす。こういう体験は、本だけでは味わえない、まさに映画特有の醍醐味だ。
「見えるはずのないものが見える」少年の恐怖と苦悩は、「シャイニング」を思い出させるし、「ジェイコブス・ラダー」も思い出した。少年の不思議な力を、一種のサイコメトリーと捕らえるならば、キングの「デッドゾーン」を思い起こさせるシーンもある。死者が見えるそれぞれのシーンについても、裏にひそんだ細かいディテールが、よく考えられていて、観客にも「見える」。これらは、丹念に書きこまれた脚本だけが持つ力であって、アメリカ最古の都市、フィラデルフィアを舞台に選んだのも成功している。
脚本、監督をこなしたのは、29歳のインド系アメリカ人、M・ナイト・シャナハン。ディズニーが脚本を見て、すぐに映画化を決定したというのも、確かにうなずけるなあ。興行的に見て、もうひとつ、この脚本の優れているところは、ほとんどCGや特殊効果無しに撮影できたであろう点。実際の制作費の大部分はブルース・ウィリスのギャラだろう。これも若い映画人のアイデアの勝利である。
ただ、映画最初に出てくる、「この映画の秘密を誰にもしゃべらないでください」とかいう、ブルース・ウィリスのメッセージなるものは、日本の配給会社が調子に乗りすぎて付け加えたようにしか思えないが、それに拘泥すると、かえって映画を見る邪魔になるような気がする。なにが秘密なのかをずっと心配して見ていると、重要なシーンを逆に見失ってしまう。先入観無しに最初から見てさえいれば、映画の持つカタルシスを十分に味わえて映画館を出て行ける、これはそんな映画だ。
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