昨日の夜は、東銀座「すし処 ととや」に。歌舞伎座近くの薄暗い路地にひっそりと看板が上がっている。 スキンヘッドの親方がひとりで握り、お茶出しやら会計は奥さんの担当。2名でやってる小さな店。とりあえず日本酒を冷で。肉厚で立派などんこの煮つけがお通しで。 ツマミを所望すると、小皿にヒラメ、スミイカ、サヨリを切ってきた。小皿に塩を盛り、醤油、塩どちらでもお好みでという趣向。奥に座った常連に、タコの仕込みの大変さを語ってたので、タコもツマミで追加。日本酒2本飲んだ後、お茶に切り替えて、おまかせで握ってもらう。 ヒラメ、イカ、真鯛、サバ、コハダ、サヨリ、ミル貝、タコ、ウニ、赤身、づけ、大トロ、ハマグリ、アナゴ、玉子と1貫づつ出て一通り。塩をつけたタコ以外は、すべて煮切り醤油を塗る。最後にカンピョウ巻きを追加。 マグロは、づけも赤身もトロも、大変に素晴らしい。5日の初セリで入ったマグロだという。マグロは牛肉同様、しばらく身を熟成させるから、まだ残ってるということだろうか。 去年の初セリでは、大間のマグロに1本2千万円の史上最高値がつき、大きなニュースになった。今年も初セリには大間のマグロが5本かかったのだが、値段付けを全員ためらっている間に、「ととや」が使ってる仲卸商がすべてセリ落としたのだとか。 そのマグロを入れてるということで、マスコミも取材に来たと親方は常連客に自慢話。ただ、いくら腹カミ1番(マグロの一番脂の乗ったところ)をそこから買うといっても、カウンタ8席のこの店で売れる量はタカが知れている。仲卸は毎日マグロを売買して商売しているわけで、自分だけがその仲卸に顔が効くというような雰囲気の自慢話には、ちょっと違和感を感じざるをえない。 「日経おとなのOFF」の取材を受けた話もしていたが、全体的にちょっと自慢が鼻につく。親方そのものは真面目で実直な人柄のようだが、集まる常連がチヤホヤし過ぎてるのだろうか。職人1人でやってる店にありがちな、世間を狭くする陥穽。ま、名店というのは、エテシテそういうものでもあるのだが。 煮ハマグリは、仕上がりが固く感心しなかったし、個人的には、光り物は、もうちょっとしっかり〆たほうが好みだ。しかし他のネタはすべて水準以上。特にシャリは、一粒一粒がツヤツヤしているのが舌で分かるような素晴らしい出来。最後の玉子は、あえて途中の層をレアで残した絶妙の火加減。堪能したが、勘定はさすがに銀座値段か。1万8千8百円也では、決して安いとは言えない。 気になる点というと、やはり店の景色。カウンタ内部が雑然としすぎている。調理場内の、古びた寿司雑誌やスポーツ新聞、洗い場のタワシやスポンジやら洗剤などが、客のカウンタから丸見え。小上がりの座敷の隅には、なにやら荷物が積んであって、布をかぶせて隠してある。作家物の皿やら銚子を使ってるのだそうで、立派な絵付けの大皿も飾られているのだが、こういう中にあっては、せっかくの焼き物も、あんまり立派なものに見えないわけで。 店内を改装して、隠すものは隠し、片付けるものは片付けないと、銀座の高級寿司屋という気がしない。玄関はそれなりに風情があるが、カウンタ内部を見ると、どうみても、どこかのガード下にでもあるような、うらぶれた大衆寿司屋風。ここがちょっと食欲にもさわるという気がした。しかしよい寿司屋である。 |