昨日は書けなかったので、日曜夜に訪問した記録を今ごろになって。はは。 昼前にカウンタを予約すると、「5時から」と時間を指定される。早めに着いたので、浅草をブラブラ。なんだか懐かしいな。店に入ると、「いらっしゃいませ」「ようこそ」と声がかかる。おお、雑誌で時折顔を拝見する、弁天山五代目の親方である。当たり前か。愛想はよさそうにも聞こえるが、噺家がマクラをふってるような、機械的で感情のない声でもある。 「飲み物はお茶でよろしいですか」と聞かれると同時に、セット物の値段が書かれたメニューも提示される。なんだか、ずいぶん慌しい印象。まあ、お茶でセットだけ頼むお客に負担を感じさせない応対か。 「日本酒を冷で」と頼むと、お酒のメニューも一応ある。燗酒・常温用が1種、冷酒が2種。「こちらが辛口です」と指された「山田錦」を注文。300mlの瓶詰め。つきだしは、小イカのゲソ甘酢醤油。 カウンタ端には初老の夫婦。「握りますか」と聞かれたが、おまかせでツマミを所望。相手をしてくれるのは、親方ではなく太めの若い職人。まず出してきたのは、マグロのスジを軽く湯通ししたもの。ちょっと醤油がかかってなかなか美味い。次にマグロ中落ち部分の引っかき。マグロの質は、最高水準とは言わないが、コクがあり悪くない。 次に、タイラ貝とマグロのぬた。これは隣の老夫婦の注文だが、親方がついでにこっちにも一緒に作成。刺身切ってもらうより目先が変っていいが、マグロばかり続くのは、ちょっと酒の肴としてどうか。親方も、あんまり飲まないほうなのかね。お酒が無くなるところで、「どうしましょうか」と再度聞かれるので、握りの「弁天山コース」を注文。握りが12貫と巻物1本、7000円のセット。1貫500円の計算で、なかなか安い。 握りは2種類づつ煮切醤油を塗って出される。まずタイと、ヒラメ昆布〆。タイの握りが、先代の本「江戸前の鮨」に出てきた写真とそっくり。切りつけ方が似てるのか。身は柔らかく、シャリと馴染んでなかなか美味い。 カツオとアジ。アジは塩と酢で〆てある昔の仕事。これも結構。「アジに旬無しと申しまして、通年で使います」と親方。まあ、昔風の仕事というのは、鮮度維持の他に、味を一定の品質に保つのも目的だから、こういう仕事なら、通年で使っても大丈夫だろう。 赤貝は、まあ普通。サイマキエビは茹でてから、甘酢につけているようだが、甘味がちとクドく感じる。これも昔風ということなんだろうなあ。北寄貝は生を酢にくぐらせて。煮イカ(スルメ)は、まあ、ごく普通の種。ただ、昨今で煮イカを置いてある店は珍しい。 コハダ、マグロヅケは、どちらも結構。コハダは、かなりしっかり〆てあるが、なかなか美味い。沢煮にした白いアナゴにはツメをつけて。最後は玉子。この玉子も、エビのすり身の入ったもので、美味い。 最後の巻物は、鉄火巻きとカンピョウ巻が半分づつ。カンピョウは、それほど濃い味付けではない。シャリは、やや固めに、米の一粒一粒がはっきり分かるくらいの具合だが、塩と酢がスッキリと効いた味で、大変に結構。そういえば、赤酢ではないが、「あら輝」のシャリにも似てるなあ。ただ、種につける煮切り醤油は、イマイチ味がボケてるような気がした。まあ、これは、ちょっと風邪気味であった私自身の体調の問題かもしれない。 鶴八系がここの一門から出たにしては、アナゴやカンピョウやらは、かなり違った仕事という印象。もっとも、全体的に、「弁天山美家古」のほうが古式を忠実に残しているようだ。 「昭和の初期までは、寿司が大きくて、うちも4個セットで売ってました。先代からは、”寿司なんか、あんまりたくさん売るもんじゃない”と叱られましたが、このご時世ではそういう訳にもゆきませんでねえ」と親方の流暢な解説。これまた、噺家がマクラを振ってるように聞こえるから、何度も同じ話をしてるんだろうなあ。 勘定は、1万円とチョイだから、極めてリーズナブル。5円単位の端数がついてるのも、ここの親方の真面目さを物語っている。「ありがとうございました」「またどうぞお立ち寄りください」と、これまた噺家のマクラのような流暢な挨拶を聞きながらを出る。入店してから約40分。早かったなあ。はは。 しかし、ある程度までなら、ここでも自分のペースで酒を飲んで、寿司をつまめる感触はつかんだ。今度は、自分で選んだ刺身切ってもらって、握りもお好みでやってみるか。伝統の江戸前仕事を今に残す、再訪の価値ある店であった。 |