日曜の夜は、寿司屋新店開拓で、桜新町の「喜与し」へ。東京レストランガイドの寿司部門ランキングでは、長らく1位をキープしてた有名店。もっとも、この東レスは、レビュアーが玉石混交で、どうしようもないヨタな感想もあるので、読むにはそれを排除する工夫が必要だ。そして、案外に当てにならないのが、何百も色んな店のレビューを登録してるヤツの寿司屋レビューだというのも面白いところ。 田園都市線桜新町で降りるのは初めて。案外に大きく立派な駅。駅から数分歩いた交差点を右手にひょいと曲がったところに店はある。看板には電気がついてないし、のれんも出してない。しかし、これがこの店の普通の状態だとか。予約以外の客はまったくアテにしてない構えだ。 店に入ると、白髪を短く刈り込んだ親方は、ハキハキした物言いで、よく気が回り愛想がよい。カウンタに腰掛けて、まず冷酒を頼んでツマミをおまかせで所望。隣の客が酒の種類を問うと、「うちは冷酒かお燗しかありません」、とのいさぎよい答え。そう、寿司屋は地酒屋ではないから、お酒は種類置く必要はない。まして、客がワイン持ち込んだりなんてのは、愚の骨頂である。 ツマミを所望すると、カウンタに置いてある塗りの台にワサビを箸で山盛りに置いてくれるのは、兄弟弟子の「銀座小笹寿し」と同様。まず白身。ヒラメとイサキ。ヒラメは昆布〆ではなく、塩で軽く〆てあるのだとか。ネットリとした旨みを引き出してあり、なかなか結構。隣の席の客にはヒラマサが。親方の発音は、「シラメ、シラマサ」と、「ヒとシの区別がつかない」江戸下町風。なかなか味がある。ははは。 つけ場の後には、ガスの焼き物専用台がしつらえてあり、ここでアナゴやらホタテやら焼くわけである。銀座小笹では焼く台は客席から見えないのだが、あそこもこうなってるのかと、なかなか興味深い。 アジ半身を軽く塩して炙って。大変に美味なり。次に塩蒸し。煮汁と一緒にかなり小さめのアワビ。いや、種札にはアワビとあるが、親方はアワビとは言わなかったから、ひょっとしてトコブシかもしれぬ。 次にタコを塩で。これは身も小さく、普通の町場の寿司屋のタコと変わり無し。「しみづ」のタコがいかに素晴らしいか、ひょんなところで再確認。 アナゴ生地焼き。生から炙ったアナゴに軽くタレを付焼きにして、山椒で。これも、小笹系伝来の必殺技。美味い。しかし、銀座小笹のほうが、ほんのチョットであるが、よりパリっとして、滋味深い気がする。次にアオヤギを炙って。しかし、これはちょっと火が通し過ぎであった。 このへんでお茶に切り替えて、おまかせで握ってもらう。 まず白身が続けて2貫。ヒラメ。そして、ヒラマサ。酢飯の具合は、割と固めに炊いてはあるが、口中でハラリと崩れる絶妙な握り。ついで、中トロと赤身のヅケ。銀座小笹の場合は、大トロに近い部分と中トロのヅケであるが、小笹伝来の何と言うか、フレッシュなヅケの風味は同じものを感じる。 コハダは割と軽めの〆だが、オボロは挟まずに握る。これも美味い。アジには、ネギを粘りが出るまで叩いた、これまた小笹伝来の薬味を載せて。これも実に結構。炙ったアワビ。炙ると香ばしい匂いがよい。 次にまたアナゴ。炙ったものに、今度はツメをつけて。塩とツメと両方出すのも、小笹流の趣向である。このアナゴも美味い。赤貝は、やや小さく、まあまあ。最後にカンピョウ巻。これは海苔の香りもあり、カンピョウもしっかり味がついており、大変に結構。 親方は目配りよく、お茶が減ってくるとすぐに察して奥に差し替えの声が飛ぶ。握りに移行するタイミング、腹の具合のみはからい等、気配りも抜群である。予約したとはいえ、初めての客に、必ず名前で話かけるのも、出来そうでなかなか出来ないことである。 〆た白身、アナゴの生地焼き、コハダの〆具合、ネギを叩いた薬味、マグロの切り付け方など、兄弟弟子である「銀座小笹寿し」と同じDNAを感じる。それはおそらく、行ったことないが、下北沢の本家からの伝来ということだろう。 これで1万2千円弱。勘定のほうは、「銀座小笹」の約半分。コストパフォーマンスの面では、大変に素晴らしい。 しかし、ワサビの風味、白身やマグロ、アナゴなど、「銀座小笹」には、ちょっとずつタネが見劣りするという印象がするのも事実。親方がひとりで切り盛りしている店で、仕込みの手間にも限界があるだろう。払った値段の見合いを考えれば、何の文句も無いのではあるが、なまじ同門で似てるだけに、まるで、「銀座小笹寿し」の廉価版「セカンド」のような感じがしてしまうのが、ちょっと気の毒なところでもあるなあ。 しかし、再訪の価値はある。近くにあったら頻繁に通ってる店かもしれない。 |