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2003/03/17 寿司日記、久々の新店開拓。中野「さわ田」

昨日の夜は、中野坂上の「さわ田」。開店してまだ1年の新進気鋭の寿司屋。新橋「しみづ」の親方が、「お近くなら今度行ってみては」と店の名刺をくれたので(近くないのだが)早速予約したのだった。山本マスヒロも最近訪れ、メディアにも次々と取り上げられているようだ。

大久保通りに面した店に入ると、カウンタ5席のみの本当に小さな店。先客は、シャンペンを持込みの初老の夫婦一組。私の後から2人連れが入店すると、店はもう満員。手伝いもおらず、お茶くみ酒出し、仕込みから切って握って勘定まで、親方ひとりですべて仕切るスタイル。ツルツルの坊主頭にした親方は、30代前半。なかなか眼光鋭い体育会系の雰囲気だが、ハキハキと明るく気持ちよい応対。

お酒は新潟の麒麟山を常温で。軽い辛口、スッキリした飲みごたえ。おでん屋で使うようなスズの酒燗器に入れて出してくるのが、なかなか面白い。付き出しはウニ。

白木のカウンタに黒い塗りのツケ台。ガラスケースはなく、客の面前に、まな板も親方の手元もすべて丸見えのいさぎよいスタイル。入って右には炭火がカンカンにおこっている焼き台。これで種を炙るのがここの特徴のようだ。

ツマミをおまかせで。まず白身が出される。ヒラメは軽く上品な脂がのった美しい身。タイは腹身と背と両方切ってきたが、これも上質で脂ののり具合が実に美味し。アワビ塩蒸しは、葉山産の半分をゴロンと切って。「しみづ」のに似てこれも美味い。次いでミル貝を塩で。

今年初のカツオ。すでに八丈沖まで来てるらしい。まだ脂は軽いが、かなり強めのスモークがかかっており、旨みが凝縮されている。平貝は炭火で炙って。七味の山椒が効いて美味い。

このあたりで緑の油紙に包んだマグロの固まりを取り出し、客の目の前でサク取りを始めるのは「あら輝」と同じ段取り。萩、見島で取れるマグロについての親方の解説が、どこかで聞いた覚えがあると思ったら、やっぱりマグロ仲卸は「しみづ」と同様、フジタ水産とのこと。前に藤田さんの「マグロメール」で読んだことがある話であった。

昨日のマグロは串本の「チュウボウ」と呼んでもいい小型、ブロックは背中の尻尾寄りとのこと。赤身をツマミで。部位からして脂は少なく、身はちょっと固い気がするが、「しみづ」と同じしっとりした旨みの系譜を感ずるマグロではある。サバは炭火で軽く焼霜に。そろそろシーズン終わりだが、なかなかよいサバ。炭火の強さがよくわかる。今度は、さきほどのマグロとは違うトロのサクを持ち出して、炭火でトロ炙り。勝浦だったか。煮切を塗ってから炭火で軽く炙ったトロの切り口は、まるでルビーのよう。旨みも香りも素晴らしい。最後は、「ばちこ」焼き。ナマコの卵巣を干した「くちこ」と同じものだ。

このへんで握りに移行。握りは、酒の後なので、かなり小さめに調整している。シャリはやや固めだが、ツヤツヤした感じですっきりして美味い。

イカ、ヒラメ、タイ、カツオ、マグロ、トリ貝と握りが続く。難を言うなら、ツマミでも食した種が握りでも続くのは、やや飽きる気がする。コハダの〆は、「しみづ」に比べるとやや軽め。もっとも、身の厚さからすると、ちょうどいいと思える絶妙な具合に上がっているのだが。赤貝は肉厚だがあっさりと香りは薄い。エビは握る寸前に茹で上げるが、甘味十分で美味し。ハマグリは漬込みではなく浅い煮上げ。アナゴは、しみづと同様の、とろけるような煮上げ。炭火で軽く炙るが絶品である。最後は酢飯抜きで玉子。芝エビすり身と山芋を入れてミディアムレアに仕上がってるが、逆に山芋の風味が生々しい。まあ、これが好きな人もいるだろうが。

結局のところ3時間近く店に滞在。私が長居したのではなく、5人の中で最初に勘定して店を出たのであるから、ずいぶんゆったりとした客あしらい。もっとも、普段はお客が2回転のところ、日曜の昨日は一回転とのこと。勘定は1万7千円なり。素材と食べた量と滞在時間を勘案したら、大変リーズナブル。

寿司種や店の広さ、雰囲気など、ちょうど「しみづ」と「あら輝」を折衷したような寿司屋。どんどんお客がつきだし、店の経営も上り調子。金が回り出せば、仕入れにももっとよいものを使える。よいもの使えば客の評判も上がる好循環。商売やって一番気合が入ってる局面ではないだろうか。親方も若く研究熱心で、寿司種も素晴らしい。同業のお寿司屋さんとの交流や、新しい世代の仲卸との付き合いの話を聞くに、新しい世代の寿司職人が江戸前の伝統の上に着々と育ちつつあるという気がする。見て盗めの丁稚奉公から叩き上げ、自分の技術は他人に教えない偏屈な旧来の職人ではなく、同業者とももっと自由に意見交換し、切磋琢磨できる江戸前寿司屋の新しい世代。常連になって損の無い、これから伸びるべき寿司屋である。ただ、私はちょっと住んでるところが遠いんだよな。はは。

個人的には、ツマミで出た種は握ってもらう必要ないので、握りの個数を減らし、滞在を2時間で切り上げ、お酒も3合、勘定が14K程度で収まると、もっと素晴らしいのであるが。もっともこれは、何度か通って常連になり、それから折り合いを図るべきことだろう。

席数5というのは小体すぎて予約取りづらいようだが、どのお客にもキチンと目配りし、待たせないためには席数が少ないほうがいい。ゆったり過ごせる。もっとも席数が少ないのも諸刃の剣。わがまま放題のうるさい客やら、親方を独占してしゃべり続ける客など、タチの悪い常連がたむろするサロン化すると、お客の裾野は広がらない。ここらあたりが小さな店の経営の難しいところかもしれない。


そういえば、昨日の昼も、山本マスヒロの知り合いと称する5名(つまり店を貸切)の予約が入ってたのだが、いくら待っても来なかったのだそうだ。店の規模にすると打撃は大きい。マスヒロからみのキャンセルは、他でも迷惑してる寿司屋があると聞いた。マスヒロも、店を訪問する客としての心得などしたり顔で本に書いてるのだが、知り合いと称するのには、どうもロクなのがいないのかも。あるいは友人をかたる嫌がらせか。