日曜の夜は「あら輝」巡回。予約通り5時半に入店。まだ客は私だけ。日本酒を冷で頼むと、出てきたお酒は岐阜の大吟醸「大輪」。あっさりと軽いがキレのいい辛口の酒。 いつも通りおまかせでツマミを。この時期のヒラメは珍しいが、房総産に軽く昆布を当てて。悪くない。カツオは薄く切ってゴマと出汁醤油で。脂は薄いが旨みあり。軽く炙ったアジは、驚くほど身が厚く脂が濃厚。雑味なく旨みだけが舌に残るウニも結構。 唐津産のアワビ塩蒸しは、海の滋味だけを抽出したような馥郁たる香り。聞いてみると、煮るのではなく、貝殻のまま6時間蒸し器で蒸してるとのこと。肝ごと蒸すのも香りが立つ理由だとか。酒と水で煮るのとはまた違った仕事だが、切り身を白木のカウンタに置いただけで素晴らしい香りが席まで漂ってくる。 次のお客さんは6時半からとのことで、のんびり飲みつつ、先日の「BRUTUS」の取材、そこに載ってた寿司屋系統図の間違い、寿司種仕事のことなど、親方とあれこれ雑談。他にお客もいないし、いろんな話が聞けて実に面白い。 寿司談義が一段落した時に、「そうそう、これを」と親方が、私の名前が刺繍してある布ナフキンを出してくれた。開店3周年記念で、お客の名前入れたのを作ったとのこと。そういえば、「きよ田」でもそういうことをしてたと本にあったなあ。 お礼を言いながらも、月イチペースの巡回、「センセイ」と呼ばれる身分でもないこのワタクシが(笑)本当に「名前入り専用ナフキン」なんて貰っていいのか、これから巡回する回数をグンと増やすべきか、などなど、雑念が色々と頭をよぎるのであった。こんなことで雑念がわくようでは、まだまだ寿司屋修行が足らんな。わははは。 赤貝はそろそろシーズン終わりだが、なかなか厚い身。ヒモにはゴマをまぶして。能登のタイは脂は薄いが旨みが濃い。アオリイカゲソ炙り。サバの炙り。玉子など貰う。 6時半から次々お客が入ってくる。頃合を見て握りに移行。赤酢のシャリはタイミングよく切ったばかり。マグロは油津だとか。かなり脂の多い部分だが、熟成が進んで柔らかく、ツヤツヤしたシャリと渾然一体となって脂が口中で溶ける。身のコクより脂の美味さが際立つマグロ。この数回の「あら輝」では、これが一番という気がした。いつもは5〜6貫マグロを連発してくるが、今回は3貫のみ。これも本日のマグロに関する自信のほどか。 アジもシャリと一緒だと脂がさらに際立つ。アオリイカ、コハダ、カスゴ、大分のエビと握りが続くが、酢飯の具合もよく、どれも結構。アサリ、アナゴ(半分は煮切り、半分はツメで)、カンピョウ巻ともらって〆。いや〜堪能した。 店を出たのは8時近く。ブラブラと上野毛の駅まで。満ち足りて清々しい気分で歩く。寿司種や仕事や店構えが違っても、よい寿司屋から出て帰る気分はいつも同じだ。そう、それを感じるために、私は寿司屋を巡っているのかもしれない。 |