日曜の夜は、西大島「與兵衛」巡回。しばらく来ないうちに、男性のお弟子さんが入っている。親方の仕込みもちょっとは楽になっただろうか。 新しい酒が入ってるというのでそれを冷で。栃木の酒、「鳳凰」。かなり辛口で旨味が濃いが、くどさはなくサラっとしている。飲みやすく大変結構。突き出しとして最初に供されるのは、ホタテ煮びたし、イカ耳、エビ頭漬け込み、シャコなど、すべて味を煮含めてあるいつものラインアップ。 本日はここにアワビとマコカレイの肝がつく。マコカレイの肝は実にツヤツヤして立派なもの。煮含めた味が実に濃厚。聞いてみると、煮汁に隠し味でニンニクを入れてると親方。冬場は牡蠣などの濃厚な煮汁で他の種を煮るのだが、季節が外れたのでその代りの風味付けに考案したとか。マグロのコーヒー煮やら、鮎の寿司やら、いつも大変に研究熱心な店である。次に出たミル貝ヒモの煮付けは、エビの出汁で煮たとのこと。濃厚な旨みと独特の食感だがやや癖があり、好き嫌いは分かれるかも。 もう少しツマミを所望。中トロ炙りヅケ、マコカレイ縁側の酢漬け唐辛子和え、アワビ塩蒸しなど。アワビは大原とのことだが、かすかに昆布の香りがする。今日のはまだ小型で、これから大きいものが出てくると親方。中トロは表面を炙ってからヅケにしてあるこの店独特の仕事だが、これがまた滋味深く美味い。 このへんで握りに移行。ここのお茶は実に美味い。シャリはいつも通りかなり固めだが、味のついた種と実によく合う。マグロ赤身ヅケ、マコカレイ甘酢ヅケ、皮目を炙ったシマアジのヅケ、茹でたサイマキエビ、酢漬けの青柳など、すべて煮るなり漬けるなり仕事をした鮨種。コハダはかなり酢が枯れているが、これまた美味い。キス、アジも結構。ハマグリは少々固いか。アナゴは白い煮上げだが、脂が乗って実にふっくらと。ただ、ツメがややくどい気がする。スリ身を入れて固く焼いた玉子は江戸前の定番だが、この店のはまた実に美味い。 生のまま握る種はまずない。かといって単純に古式そのものを残しているのでもなく、常に新たな工夫がある。酢〆や固めのシャリなど、江戸前の基本は忠実に抑えている。個性としては突出しており、実に独特な種。このような寿司屋は他にはない。親方もおかみさんも気さくで明るく、常連と一見を差別するようなこともない。居心地よく実に優れた店。難点は、場所が少々不便なのと、割と勘定が張るところだろうか。 |