日曜の夜は、西大島「與兵衛」巡回。 店は6時半開店だと思っていたが、開店時間通りに入店すると私の席以外はすべて埋まっている。握りに移行してかなり経った雰囲気のグループもあり。なんだか遅刻して迷惑かけたような気分。6時頃からでも入れるようだ。 親方の駄洒落連発でカウンタは実に和やか。この店は、寿司仕事も素晴らしいが、客に無用な緊張を強いない店の雰囲気が優れている。 酒は、まず「十四代 本丸」を冷やで。名前を書いた札が新しく大きくなっている。まずシマアジ・アラの暖かいスープ煮。出汁が実に複雑な味で美味い。寒い季節には、寿司屋で最初に暖かいものが出るとありがたいな。 突き出しの一皿はいつも通り、煮たり漬込んだり仕事した種がツマミとして満艦飾。イカ耳、エビ頭、ホタテ、北寄貝ヒモ、牡蠣、シャコ。牡蠣の煮びたしは今シーズン初めて。ふっくらとした旨みが素晴らしい。ここのシャコも実に立派で漬込みもやわらかくあがっている。カツブシと呼ばれる卵が入ってないのも好みである。 お酒2杯目は「東洋美人」大吟醸に切り替え。食事に障らない淡麗な酒。透明な一升瓶が珍しい。 お酒3本目は「開運」にして、もうちょっとツマミ。ヒラメの縁側酢漬けは唐辛子が効いて美味い。酢〆のサバをバーナーで炙って焼霜に。身の厚い立派なサバ。ここでサバが出るのも久しぶり。前回10月初旬に来た時の光り物はサンマとイワシだった。イワシもまだ上質なのがあるのだが、この数日海が時化ているので入らないとのこと。 ツマミも堪能したのでお茶を貰って握りに移行。すべて1貫づつ煮切を塗って供される。 表面を炙ってから煮切に漬けた中トロのヅケはいつもながら絶品。赤身のヅケはコクが深い。ヒラメの甘酢ヅケ。皮目をバーナーで炙ったシマアジも結構。スミイカは軽く湯引して、ほんの軽い味をつけてある。 コハダは肉厚で酢もしっかり効いているが、肉質はネットリとして旨みが際立つ。サバも素晴らしい。酢〆にしてから4日目と2日目のとを1貫づつ食べ比べ。4日目のは、酢が身に馴染みきって枯れ、身の旨みだけが熟成されて脂に溶け、滑らかに舌の上に広がる。 ここのサヨリが乳白色なのは、酢を当てているからだと思っていたが、確かめてみると、脂が乗り切った素晴らしいサヨリは元々乳白色がかっており、そういうのを選んでるのだとのこと。そういえば、「すきやばし」もこういうサヨリだった。いざ聞いてみないと、なんでも分からんもんである。光り物は嫌いな人も多いが、ここのが食べれないとすると実に気の毒。北寄貝は軽く酢に通してある。エビもくどくない甘味が美味い。ハマグリ、アナゴも古式ゆかしい風味のツメが結構。玉子は小柱のすり身入り。 6名ばかりのお客さんがドっと帰ったので、ガランとしたカウンタで親方とあれこれ寿司談義。寿司の酢飯は、好き好きではあるが、固めのほうが本格で美味いということで意見一致。ここの玉子焼は絶品だが、そもそもは、鶴八の先代、師岡親方に小柱を混ぜろと教えてもらい、試作品を持って神保町まで行ったこともあるとか。 そういえば、ここでは海苔巻を頼んだことがない。だいたいおまかせで握りを食すると、ほとんど満腹になってしまいたどり着かない。カンピョウは仕込んでるのと尋ねると、「当たり前じゃないですか(笑)」とのことであった。今度、一度試さなければ。 ここの親方は久兵衛出身。しかし、この店の、漬け込んだり煮たりの極端に古典的な寿司種仕事は、久兵衛で修行した訳ではない。独自の研究とアレンジによって現代に復活した古典の精神というか。市川猿之助のスーパー歌舞伎が邪道と言われながら、実は古典的ルーツたる歌舞伎の「けれん」と下世話な精神を現代に一番よく伝えているのとちょうど同じような印象がある。 雑談してると親方が、「築地の鮨つかさってのはどんな店ですか」と聞いてくる。このページでよくでてくるのでちょっと気になったらしい。だんだん名前も売れてきたかな。ははは。店を出る時には、また雨が降り出していた。満ち足りた気分でタクシー帰宅。 |