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2003/12/22 本年最後の、西大島「與兵衛」。

日曜夜は、西大島「與兵衛」。本年最後の巡回。

6時半に入ると私が最初の客。最初の日本酒は、福岡の大吟醸「駿」。初めて聞く銘柄だが、磨きこんだ淡麗な酒。すっきりした味わい。最初に出てきたのは牡蠣の暖かいスープ。実に立派な牡蠣。煮汁は1/4ほどを残して毎回継ぎ足し ているのだそうだが、海の滋味だけを溶かし込んだような奥深い旨み。

他にお客がいないので、種の仕入れやら仕込みやら、親方とあれこれ寿司談義を。ヅケ用の醤油もイカ用や白身用など使い分けているそうだ。煮物の出汁も、牡蠣の煮汁を入れたり、ヒラメやシマアジのアラで取ったりと使い分けるなど、この店独特の工夫が随所にある。白身をヅケにして身を柔らかく保つのにも色々苦労するが、柔らかいから新鮮ではないと勘違いする客もいるとのこと。

もしも、今後1軒だけしか寿司屋に行けないとしたら、この店を選択するのはちょっとためらいがある。素晴らしい技を持った店だが、1軒にしぼるならもっとプレインな寿司屋がよい気がする。しかし3軒に対象を広げるならこの店は絶対に外せない。そんな話を親方と。そう、寿司に詳しいお客さんがうちのお客には多いですよ、と親方。どこかの寿司屋の常連でもあるが、「與兵衛」も好きで平行して来るという客層が多いんだと。

もっとも、一見で寿司慣れしない人がこの店に来てもちっとも嫌な思いはしない。駄洒落好きな親方は、寿司の何を聞いても親切に教えてくれるし、奥さんも明るくて気さくな人柄。お弟子さんも愛想がよい。実に居心地のよい店である。

甲府から2時間の電気も届いていないような山奥から、月に何度もこの店に通い詰める常連客もいるらしい。仙人か「ユナボマー」かというような人でも「與兵衛」の寿司が食べたくて下界に下りてくるとは。ご本人からは当日も予約が入っており、後で隣に座ったのだが、求道者というか、密教の修行僧のような容貌。酒を飲まず握りのみ。そういえば、何度かここで見かけたことがある。

そうそう、えらく脱線したが寿司の話であった。まずいつもの付き出し。エビ頭、シャコ、ホタテ煮びたし、イカゲソと耳のヅケ、平貝のゲソ。どれも繊細に味が煮ふくめてあり、日本酒によく合う。2杯目は灘の「明鏡止水」。米の旨みがズッシリくる重たい酒。ツマミをもう少し所望して、中トロヅケ、イワシ、ヒラメの縁側甘酢ヅケ。3杯目の日本酒で「十四代本丸」を頂いてホロ酔い加減に。

ここでお茶に切り替えておまかせ握りを。

マグロヅケ、ヒラメ甘酢、シマアジ。どれもこの店の定番だが美味い。生の寿司種では得られない滋味と食感。酢飯も固めに仕上がっており、味のついた寿司種と実によく合う。

エビは茹で置きではなく、握るちょっと前に茹でるのだが、しばらく甘酢に浸して味をおちつかせる。サヨリは脂が乗って旨みあり。味もそっけもないサヨリを出す店もあるが、この店のサヨリは違う。コハダはネットリとして〆具合も結構。サバも実に柔らか。北寄貝は甘酢にひたして。平貝もヅケにしてあるのだが、これまた結構。

ハマグリ、アナゴなどの煮物は独特のコクがあるツメをつけて。玉子もいつもながらシットリして美味い。最後にカンピョウ巻。いつもおまかせで満腹になってしまうため、実はここで海苔巻を頼んだのは初めて。カンピョウは鶴八系と同じく、醤油をつけなくても十分美味い濃い味付け。ただ、海苔にはややヒンヤリとした香りが。まあ、自分の店で炭火で炙らないほとんどの寿司屋がそうなのだが。

「今年もあと10日ですね」と言うと、「あちこち回る寿司屋があって大変でしょう」と親方が。まるで昨日の上野毛と示し合わせたように同じセリフを言うので笑ってしまった。しかし、寿司屋巡回の年末進行もそろそろ終盤。勘定を済ませて店を出る時に、お歳暮として海苔を頂いた。来年もまた来なくては。ははは。

満ち足りた気分でタクシー帰宅。