ボチボチと書いてたのだが、なかなか終わらないので、日本滞在中の寿司日記他をまとめて怒涛のアップ。次回の帰国まで、寿司日記は当分のお休みだ。当然のことながら、寿司も和食も日本が一番。まあ、しかし、その水準をこちらで望んでも詮無いこと。昨年のことは昨年で終わり。次回帰国するまでは、無い物ねだりせず、日本の思い出を胸にアメリカで手に入るものだけで満足し、心静かなメリケン生活を送って行きたい。<って、いったい何の抱負だよ、オイ(笑) 2006/12/26 新橋「しみづ」 開店と同時に入店すると、「最多来店記録」氏と同席。「まつもと」でも噂を聞いたのだが、ご本人に確認すると、昨年の来店回数大記録を今年はすでに上回ったとか。「まつもと」5回、「久」9回は別にしてのことだから、これまた凄い話ではある。 久しぶりの清水親方とも「久」の話やら、最近の寿司種のことやら、あれこれと雑談。一番弟子だった大典氏は、「まつもと」開店で独立。その次のお弟子さんだった「ストロング金剛」は実家を継ぐとのことで卒業。その下に入った女性のお弟子さん、文ちゃんが、現在では親方補佐のポジションにつく。寿司屋で女性のお弟子さんは珍しいが、受け入れるほうも偉いもんだと思う。店にはもう一名新しいお弟子さんが。京都で和食の修行経験もある「期待の即戦力」だとか。どちらも頑張ってほしいもんである。 この店は、お茶で握りの人もいれば飲む人もいる、「おまかせ」もあれば、種札見て「お好み」のお客さんも多い。握るのは親方だけ。全部の客の相手しながら、つまみも握りも、お酒もお茶の差し替えも、どのお客にもほとんど待つストレス無く出てくるというのは、考えてみると結構凄いことだ。この小さな店で女将さん入れて4名でオペレーションしてた時もあったのだが、女将さんは「新ばし 久」に現状かかりきりとのこと。3名では結構手一杯で忙しそうな感あり。 懐かしの種札を前にして、アメリカ寿司種事情をF氏と雑談。つらつら考えてみるに、向こうでは無いものばかり。いつも通り、お酒を常温で。あとは何も言わずとも適当にツマミが出てくる。 ヒラメは上質の脂が乗って歯応えもよい。塩で食すタコは、甲殻類を茹でた時のような馥郁たる香り。噛み締めると素晴らしい旨みが口中にしみわたる。桜煮になるとこの香りが薄れる。やはり塩のほうが好きだな。アメリカではアフリカの冷凍物が日本経由で入ってきてるだけだから、こんなタコにはお目にかからない。いや、日本ですら、この店のタコを凌駕する店は少ないだろう。シャコは鶴八系独特の漬け込み。これまた懐かしい。サバは皮目を軽く焼霜にしたものと生と両方。脂と旨味が乗って、かつシットリと柔らかい。握りなら生がよいが、ツマミなら炙ったほうが好きだ。 サヨリは軽く一塩当てたもの。干すというより冷蔵庫で軽く風に当てる程度とか。これを炙ると酒によく合う。赤貝はヒモと共に。平貝炙りも懐かしい香りと歯応え。スミイカ。ウニとイクラはぐい飲みに盛り合わせて。イカ塩辛も少し。ツマミと日本酒を堪能。 握りはいつもの通り。マグロ、コハダ、アナゴ、カンピョウ巻。この4種だけに限るなら、この店のが一番好きかもしれない。コハダ、アナゴ、カンピョウ巻については師匠の新橋鶴八も同様に素晴らしいし、アナゴについては與兵衛も捨てがたいのだが。最後に玉子を1貫。レシピは変えてないが、握りに合うよう薄めの焼き方にしたのだと。久しぶりだが、やはり通い慣れた店が一番だと、しみじみと。 2006/12/27 「しみづ」昨夜に続いて今度はお昼に。 久しぶりの日本だし、握りを主体で食べるのもよいかと次の日の昼に予約。しかし飲み物を聞かれてとたんに迷いを生じる。ま、休暇中でもあり、お酒を常温で1本だけもらうことに。昼から調子が出たら困るので、2本目を注文しても出さないように親方に頼んでおく。いったいオレは何やってんだ(笑)。 古いものだという緑色の玉杯を出してもらってチビチビと。「葡萄の美酒 夜光の杯 飲まんと欲して 琵琶馬上に催す」なんて、昔、漢文の時間に習ったっけ。 「酔いて沙場に臥すとも 君笑うなかれ 古来征戦 幾人かかえる」と続くのだ。日本人は、今の中国人より、ずっと昔の中国人と心が通じ合うと思うな。 ツマミも少しだけ。ヒラメは歯ごたえよく香り高い身肉。塩で食するタコも相変わらず美味い。シャコ漬け込み。平貝炙り。ここでツマミ終了。あとはおまかせの握りを。 まずサヨリ。そしてパキパキした食感のスミイカ。酢と塩の効いた酢飯、そのくっきりした輪郭がよく分かる。ブリは皮目を炙ってヅケにしたもの。天然物の脂は、濃厚だがくどくなく、サラリと口中で酢飯に溶け込むがごとし。マグロは赤身に近い部分から脂の乗ったところまで部位を変えて3貫。どれもシットリとした旨みがあり素晴らしい。コハダはここ独特の強めの〆。なれるとこれが癖になる。サバも〆は強めだが、身肉はあくまで柔らかく口中で溶ける。 赤貝も酢飯と一緒に食するほうが香りが立つような気がする。立派な車海老は茹でたてをしばし置き、室温に戻してから握る。ウニ軍艦、漬け込みのハマグリ。アナゴは1貫を割って塩半分、ツメ半分に。玉子は昨日も食べた薄焼。最後はいつものごとくカンピョウ巻。結構食べたが、テンポよく食べると、結構入ってしまうものなのであった。 2006/12/27「新ばし 久」 夜は、「しみづ」の姉妹店「新ばし 久」訪問。昨夜、場所は「しみづ」で教えてもらったのだが、看板が出ていないから、知らないとうっかり通り過ぎる。元は焼き鳥屋だったとのこと。 開店の案内をもらっていたので是非一度訪問をと考えていた。寿司屋ではなく和洋にこだわらない「居酒屋」がコンセプトとのこと。料理長を務めるのは「しみづ」親方の弟、清水久史氏。何度か「しみづ」でお会いした事があり、もともと洋食系の料理人だと聞いていた。 開店と同時に入ると私が本日最初の客。内部は新装したのだそうで、寿司屋のしつらえとは違うが、一枚板のカウンタがなかなか立派。久史氏と、奥さん、手伝いの若い衆(彼は「しみづ」の新しいお弟子さんの弟だそうである)、そして、「しみづ」の女将さんも、開店以来こちらに総監督(?)として常駐して4名で。 カウンタはしばし私だけ。日本酒、「大七」を常温で飲みつつ、久史氏や「しみづ」の女将さんとあれこれ雑談。久史氏は、アンカレジ日本領事館でシェフをやってたそうで、当時の話など興味深く聞く。領事一家の食事はすべて領事館料理人が作るのだそうで、佐藤優の本を読んでも分かるが、外交官の在外生活もまことに優雅だ。民間企業の海外駐在員の待遇など足元にも及ばない。いやはや。 さて、料理のほうは、まずお決まりの5品が出て、その後に好きなものを頼むというシステム。居酒屋と称するだけあって、日本酒以外に焼酎、ワインなどもあり。食器は「しみづ」コレクションの焼き物から。日本酒を頼むと、籠に入った好きなぐい飲みを選べる。 おきまりの5品は、おから、変り八寸、香箱、お造り、野菜煮物椀。ズワイのメス、香箱ガニは「笹田」でも出たが、ちょうどシーズンだけに結構なもの。お造りは、細切りのタイに塩昆布まぶしたものと〆サバ。仕入れる魚も、サバの〆具合も、ある程度「しみづ」とは変えているとのこと。京野菜の椀は、和食系の出汁ではなく、チキンコンソメがベース。メインに並ぶのは、フライやムニエル、オムレツなど、洋食系なので、後半への移行をスムースにする役割を果たしている。「からさめ」なんてメニューもあったが、春雨にカラスミをまぶした「しみづ」の正月おなじみメニュー。 お好みのほうは、「海老マヨサラダ」と「かすべのムニエル」を選択。それにハマグリのフライがお勧めというので1個追加してみた。「笹田」同様炊飯土鍋で炊き上げる御飯も売り物らしいが、お昼に「しみづ」でさんざん寿司食べたので御飯はスキップ。炊くのに時間かかるだけに、慣れないと注文のタイミングがやや難しいかも。 海老マヨサラダは、車海老を湯がくところから始める。自家製マヨネーズの酸味がフレッシュで美味い。「かすべ」とは、いわゆるエイなのだそうだが、下処理をきちんとすると嫌な匂いはしないとのこと。軟骨部分の食感が香ばしくも面白いムニエル。ハマグリのフライというのは初めて試したが、塩で食すとなかなか美味いもんである。初回なので量が分からず控えめになってしまったが、どれもポーションは少なめ。もう少し頼んでも大丈夫だったな。 当面は、「しみづ」の常連中心に営業する予定のよう。和と洋の気楽なハイブリッドを感じられる居酒屋というコンセプトが面白い。ただ、定着するにはもう少し時間が必要かもしれない。和食の店だと思い込んで入店すると、やや困惑が生じるお客もいるだろう。久史氏の引き出しも数多くあるようなので、反応を見計らいながら試行錯誤でメニューを入れ替えし、人気の定番料理が決まってくると、実によい店になるだろう。洋食屋系のパスタなんかあっても面白いと思うが。寿司屋同様、オープン・キッチンで「さらし」の商売。慣れないと接客もあれこれ大変だと推察するが、2007年も益々頑張っていただきたいもんである。 2006/12/29 築地「つかさ」 朝から用事があり、大阪まで日帰り往復。年末の関が原は、必ず雪が降っている気がする。新幹線も徐行運転。先日の「まつもと」訪問を入れて、短期間に関西日帰りが2回。結構疲れるもんである。新幹線は前からこんなに乗り心地悪かったっけ。 夕方6時の予約で久々の築地「つかさ」訪問。本日は、カウンタ予約は遅い時間だけとのことでカウンタは私一人。高橋親方と久しぶりにあれこれと雑談しながら。相変わらず快活で腰の低い親方である。早川光氏と一緒に載った雑誌の記事のことやら、「東京いい店うまい店」に掲載されたことなど冷やかしながら。寿司取材の話など聞くとなかなか面白い。高橋親方も「新ばし 久」訪問したそうで、その時の話なども。 いつも通り、日本酒を常温でもらって、ツマミはおまかせで。最初はタコ桜煮。氷見のブリは、よく脂が乗っているのだが、その脂がサラリと口中で溶ける。東京湾のヒラメも実に上質。平貝は炙って。 ここの定番、マグロ脳天スモークは白葱を添えて。マグロの質も勿論よいのだが、スモークによって身肉に旨味が凝縮され、マグロの脂が香ばしく溶けるかのように変化するところがこの仕事の白眉。アナゴは軽く煮上げたものを焼き、七味を添える。小笹系のきじ焼きをヒントにツマミ用新機軸として開発したそうで、寿司種用とはまったく別の仕上がり。香ばしい皮目が美味し。 このへんでお茶に切り替えて握りに。スミイカは、独特のパキパキ感が酢飯によく合う。マグロは赤身から中トロへと部位を変えて。どれもシットリした上品な旨味。コハダはやや軽い〆か。小柱は海苔によく合う爽やかな香り。車海老は茹でたてを。アナゴは以前よりも柔らかくトロリと上がっている。白ウニも実に上質なサラリとした脂。最後にいつもの鉄火巻。マグロと海苔が、この店のツヤツヤと光りスッキリした酢飯に溶けて、これまた実に美味い。またの再訪を約して年末のご挨拶など。 2006/12/30 「しみづ」 で2006年の寿司納め 30日は「しみづ」本年最終日、例年通りお昼から通しでの営業。祇園「まつもと」にもご一緒したAご夫妻と同じ時間で予約を入れて頂いてあったのだ。 まず、常温でお酒もらってツマミを。先日の「まつもと」訪問のことなど、Aご夫妻、清水親方とあれこれ語らいながら。本日の白身はタイ。アメリカで出るタイも日本から持って来てると称するのだが、同じタイとは思えないほどこちらのほうが美味い。まあ当然といえば当然か。塩で食するタコも、香りと歯ごたえが実によい。漬け込みのシャコ。サバはいつも通り皮目を焼霜に。赤貝、ヅケにしたブリ、平貝炙り、ウニとイクラなど、日本酒が進む。最後はお茶に切り替えていつものごとく握りを。これで本年の寿司納め。1年の最後を例年通りここで締めくくることができて実によかった。いつもと同じ店で、同じものが、同じように美味いこの至福。 翌日大晦日の夜も、忘年会に誘って頂いて参加。「最多来店記録」氏、清水親方、女将さん、弟の久史氏ご夫妻、お弟子さん達と、銀座の蕎麦屋にて。9時過ぎからカウントダウン挟んで延々と。燗やら冷の日本酒、そしてシャンペンと、あれこれ飲みつつ語り、食べ、実に賑やかで楽しい年越し。しかし少々飲みすぎたか。結構酩酊してホテルに帰還したのだった。 |